監査法人とは、企業の決算が適正かどうかをチェックする組織。仮に、企業が決算を発表した後に不正などが見つかれば監査法人の責任も追及されるから、手心を加えるわけにはいかない。
一方、成長のために企業買収を重ねる日本企業が増えている。そんな中、買収した企業が収益に貢献しないと監査法人に判断されて「のれん代」が減額されれば、買収した側には数百億円や数千億円の損が一気に発生する可能性もある。企業側も簡単には引き下がれないのだ。
貸借対照表に計上される「のれん代」とは
具体的に解説すると以下の通り。
のれん代とは「買収した企業の帳簿上の価値よりも多く払った金額」のこと。
例えば、純資産100億円の企業を200億円で買収した場合、差額の100億円がおよその「のれん代」となる。のれん代は“無形固定資産”として、買収した企業のB/S(貸借対照表)の左側の資産に計上される。
ただ、少し厄介な話になるのはここからが本番。
会計基準はグローバルに
日本企業が採用する財務諸表は3つ
実は、日本企業が採用する財務諸表の作成ルールは大きく三つに分かれる。
日本企業が採用するのは「日本基準」、「米国基準」と「国際会計基準・IFRS(アイファース)」の三つが主流。IFRSはまだ少数派であるものの、近年では採用企業が増加。そのIFRSと日本基準ではのれん代の扱いが大きく異なるのが問題となっている。会計には「償却」という考え方がある。資産は時間がたてば価値が下がるから、それを会計上にも反映していこうというものだ。
償却ってなんだ?
設備の減価償却という言葉を聞いたことがあるかもしれない。例えば、1億円の設備を購入した場合、その資産価値の減少を1億円ずつ2年間で償却していく。
B/S(貸借対照表)の資産は毎年1億円減り、その1億円はP/L(損益計算書)では「減価償却費」という費用として計上されるのだ。
つまり、日本基準では無形固定資産に計上された“のれん代”はまさしく、このように定期的に償却されていく。 つまり、買収額が大きかったり買収した企業が多かったりすれば、P/Lの費用も大きくなり利益を圧迫することになる。その反面、税引前当期純利益が跳ね上がった年度には、のれん償却費が費用計上されることにより、納税額をグーンと減らす効果もある。
IFRSではのれんを定期償却できない
ところが、IFRSと米国基準では生じない。というのも、定期的に償却する必要がないからだ。
次々に企業買収をしてもP/L(損益計算書)に影響が少ないため、それが日本企業でもIFRS採用が増えている理由だともいわれているほど。
ただし、IFRSと米国基準では、決算のたびに買収した企業の業績をチェックしなければならない。そのチェックは監査法人も担う。仮に想定した収益を生み出していないと判断された場合、のれん代を減じて、その額を「減損」としてPLに反映しなければならない。
ちなみに、これは日本基準でも同様で、収益に貢献しないと判断されれば減損の必要が生じる。その結果、数百億円や数千億円の損が一気に発生する可能性が出て来るわけだ。